森の学校~植栽~
今回は、森の学校基本コース最後の講義『植栽』についてです。
日本では、森林法により木を伐採する際には届け出なければならないことや、皆伐したら植えなければならないということが定められていることをみなさん知っていますか?
『木を伐ったら植える』。これは次の生産に備える林業の大切なサイクルでもあります。
植栽の時期は、苗木の種類にもよりますが、遅くとも5月初めのゴールデンウィーク辺りまでです。それを過ぎると、苗木が水を吸い上げ始めるので、その前に行うか、秋の葉が落ちる頃になります。一般的に植栽といえば、人工林=スギやヒノキの針葉樹というイメージかもしれませんが、それは一昔前のことで、現在は、広葉樹のニーズも多くなっています。時代は石油燃料から木質燃料へと変化してきていたり、災害防止のための環境公益林であったり、折からのキャンプ・薪ストーブブームで薪炭林(薪を生産する森林)を造林することもあります。
苗木にはいくつかの種類があります。一般的に林業でよく使われるのは『はだか苗』といい、根に土がついていなく、軽くて運搬しやすく、価格も安いのですが、根っこが丸裸になっていますので、非常にデリケートで乾燥に弱く、植えるまでの保管には神経を使います。

『ポット苗』というのは、一般参加の植樹会などでよく使用されます。細根がよく発達していて、活着率が高いというメリットがありますが、土がたくさんついていて重く、山の上まで運搬するのには不向きです。
『コンテナ苗』というのは、最近新たに開発された苗木で、製造コストも削減でき、造林コストも省力できると期待されていますが、はだか苗に比べると少し価格が高くなります。昨今、全国でコンテナ苗による造林が試されており、南都留森林組合でも最近、市内の大きな施業地で約5000本のスギ・ヒノキのコンテナ苗を植えつけました。

人間界には『適材適所』という言葉がありますが、森林界にも『適地適木』という言葉があります。要するに、植物にもそれぞれ生育するのに適した場所があるということです。単に人間がどんな森林を作りたいかということだけではなく、その植物の特性を考えながら、植栽樹種を決めていかなければなりません。よくベテランの山師から教えてもらうのは『尾根マツ、沢スギ、中ヒノキ』という言葉です。その言葉のとおり、やせて乾燥した尾根にはマツ、湿気の多い沢にはスギ、中間にはヒノキを植えるということです。
地形や気候条件によって、苗木どうしの間隔を考慮する必要がありますし、何の木をどのような目的で生産していくかによって、植栽密度も大きく変わります。
実際の植え付けの方法は、まず等高線に沿って樹種によって決められた間隔で植える場所を決めていきます。植える場所が決まったら、植栽位置の落ち葉や枝を取り除きます。そしてクワを使い、苗を植える穴をまっすぐに堀り、掘った土で穴のすぐ下に平らな台を作ります。苗を植えたら、穴の上部の湿った土をかぶせ、周囲の地面を踏み固めます。最後に落ち葉や枝を苗の周りに戻して、土が乾燥するのを防ぎます。
植栽とセットになっている作業が獣害対策です。植栽後10年くらいまでは、シカなどによる食害が多いので、せっかく植えた苗がしっかりと成長するまでは、様々なタイプの獣害防除のための資材を用いて苗を守ります。今回は、苗木一本一本を保護する単木保護タイプのネットを設置しました。これ以外には植栽エリア全体を囲って保護するタイプもあります。
このように植栽は、いろいろなことを考えて慎重、且つスピーディーに作業を進めなければなりません。
植栽は、長い時間をかけて樹木が成長し、美しい森となるためのすべての始まりです。植え付け作業をしていると、こんなに細くて小さな苗が、50年、60年後には太くて大きな樹となり、私たち人間に豊かな森の恵みを届けてくれるのだと思うと、『木を植える』ということはなんて尊い作業なんだろうと思います。
今回植えた苗たちが立派に成長する頃に、自分も元気でいたいと思う今日この頃です。
執筆者:辻 康子