原木市場と木材需要について
山梨県には3つの原木市場がありますが、ここ南都留森林組合が管轄している地域には『甲斐東部材産地形成事業協同組合』が経営している原木市場があります。今回は、月に一度開かれている『市』を見学しましたので、その様子をお伝えします。
一般の人たちが原木市場を訪れることはほとんどないと思いますので、まずは木材の流通がどのような仕組みになっているのかを説明します。
市場と聞いて、みなさんが思い浮かべるのは、魚市場とかだと思います。たくさんの魚が並べられて、競りにかけられている様子はテレビでもよく目にするのではないかと思いますが、原木市場はその丸太バージョンです。
我々のような森林組合や素材生産業者などにより山から伐り出された丸太は、一旦この市場に運ばれて、樹種、長さ、径級、品質、直材・曲がり材などにより仕分けされ、それぞれはい積みされます。そして、月に一度の『市』で、入札にかけられ、丸太を購入したい製材業者さんや木材販売業者さんが購入します。
通常は、実際に購入したい人が市場を訪れ、その場で入札が行われますが、現在は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、ほとんどの人が事前にFAX等で入札するケースが多いようです。写真は開票の様子です。このあと、開票結果が読み上げられ市は無事終了しましたが、印象的だったのは「いや~(価格が)読めないですね・・・」という関係者の言葉でした。
ニュースなどでも“ウッドショック”として取り上げられていますが、今、新型コロナ感染症の影響により、木材の価格が揺れています。輸入材が手に入らず、国内の住宅会社や家具店などが困っているということです。
木材価格が高騰している理由はいくつかの要因があるかと思いますが、大きな要因と考えられているのは、コロナの影響で停滞していた経済が、世界中で少しずつ回復する中、欧米ではポストコロナの生活を考え郊外に家を建てる人が増えているそうです。それが木材需要を上げており、価格の高騰につながっているのですが、高くても買える国に対して、日本は『買い負ける』という現象が起きています。
それでは、国産材を使ったらいいのではと単純に考えると思いますが、みなさん、日本の木材自給率がどのくらいかご存じですか?
日本は国土の約7割が森林なのに、実は自給率は約4割程度です。ですから、輸入材が手に入らないことが、直接木材業界に打撃を与えているのです。
もちろん、国産材も影響を受けており、一部では価格の高騰により木材が奪い合いになっています。それでは、木材生産量を上げたらいいのではないかと考えると思いますが、それはそんなに単純な話ではありません。
これまでもお伝えしてきたように、林業は需要が高まったからといって、それに合わせて流通量を簡単に増やせるようなしくみではありません。日本全国の山にはたくさんの木があるのだから、工場の生産ラインを増やすように、木を伐り出す現場を増やしたらいいと考えるかもしれませんが、木材生産は野菜栽培と違って、長い年月がかかります。需要が高まったからといって、一気に伐ってしまったら次の収穫までに50年から60年かかるわけです。また、木を伐って運び出すということがどれほど労力のかかる作業であるか一般の人たちにはなかなか知り得ない世界です。
木材の搬出には、何日もかけて山奥に重機で作業道を入れ、作業員たちがチェーンソーを担いで、立っているのもやっとの急傾斜地で一本一本伐っているのです。そして、道入れも伐採も一朝一夕に身につけることができる技術ではありません。そもそも林業界が抱える担い手不足、そういった特殊な技能技術を身につけるための人材育成など課題は山積みです。
今回のウッドショックはメディアでも大きく取り上げられていますが、根本的な問題は今起こったわけではありません。林業界全体が考えなければならないことは、どうしたら安定的に木材供給ができ、且つ国産材の利用率を高めることができるのかということです。それには多くの課題が伴いますが、長期的な視野に立って、関係者が向き合わなければならない課題であることは明確です。
執筆:辻 康子